The Blossom - William Blake
「花」 - ウィリアム・ブレイク
The Blossom - William Blake
「花」 - ウィリアム・ブレイク
ウィリアム・ブレイクの「花(The Blossom)」は、『無垢の歌(Songs of Innocence)』のなかでもひときわ短い形式の詩ですが、その短さの中に自然の活き活きとした情景と、生命への優しいまなざしが凝縮されています。登場するのは、小さな花、スズメ、コマドリといった身近な生き物たち。わずかな行数のなかで、彼らが交わすかのような繊細なやり取りが描かれているのが印象的です。
冒頭の「Merry, merry sparrow!」という呼びかけからは、伸びやかな活力と楽しさが感じられます。スズメの姿を“swift as arrow”とたとえることで、小鳥特有の素早さや軽やかさを巧みに表現し、読者の目の前に動きのある情景を浮かび上がらせます。一方、コマドリに対しては「sobbing, sobbing(すすり泣く)」と語りかけ、愛らしさのなかにもかすかな哀愁を含ませることで、一羽一羽の小鳥が持つ異なる表情を明確に描き分けています。
詩のタイトルになっている「花」は、どちらの鳥に対しても“近くで見守る存在”として登場します。スズメやコマドリを招き、彼らの声や動きを感じ取りながら、まるで母性や慈しみを象徴する役割を果たしているかのようです。「胸の近く(Near my bosom)」という表現により、読者は自然と花のあいだにある優しく穏やかな空間を想像します。ブレイクが大切にしていた“自然や小さな生命を見つめるまなざし”が、この一節だけでも十分に体感できるよう工夫されています。
この作品をより深く理解する鍵は、“幸せな花”が鳥たちを見つめ、そして鳥たちが花の存在を意識するという視点の相互作用です。まるで小さな世界が完結しているような、閉じた円環のなかで命が輝くその様子は、『無垢の歌』に通じるブレイクのテーマ「無邪気さ」「自然との調和」を象徴しているとも言えます。さらに、鳥たちが見せる異なる感情――スズメは喜び、コマドリは悲しみ――を、同じ花が同時に受けとめる姿は、自然が多様な生命を包み込む力と優しさを暗示しているとも解釈できます。
わずか2連で構成される本詩は、表面だけ読むとシンプルな自然詩ですが、ブレイクの宗教観や生命観を踏まえれば、“母性”や“保護”といった要素が織り交ざった深い寓意詩としても味わうことができます。「ナースの歌」や「子羊」といった作品群とも同様に、小さきものへの愛と尊重が、一貫してブレイクの詩心を支えていることが感じられるでしょう。
• 2羽の小鳥(スズメとコマドリ)を対比的に描写し、それぞれの感情を繊細に表現
• 幸せな花は、小さな世界の“優しい受容者”として機能
• 「無垢の歌」に共通するテーマである自然や幼い命への温かいまなざしが滲む
• シンプルな構成ながら、ブレイク独特の母性・宗教的象徴が見え隠れする寓意深い作品