[古典名詩] 決意と独立 - 詩の概要

Resolution and Independence

Resolution and Independence - William Wordsworth

決意と独立 - ウィリアム・ワーズワース

大地と心を巡る決意が紡ぐ、孤高の精神の物語

There was a roaring in the wind all night;
一晩中、風の轟きが鳴り響いていた;
The rain came heavily and fell in floods;
激しい雨が降り注ぎ、まるで洪水のように落ち続けた;
But now the sun is rising calm and bright;
だが今、太陽は静かに、そして明るく昇ろうとしている;
The birds are singing in the distant woods;
遠くの森では鳥たちがさえずり、
Over his own sweet voice the Stock-dove broods;
その甘い声に耳を澄ますキジバトが、うっとりと佇んでいる;
The jay makes answer as the magpie chatters;
カケスはサギの鳴き声に応じ、
And all the air is filled with pleasant noise of waters.
大気は心地よいせせらぎの音に満たされている。
All things that love the sun are out of doors;
太陽を愛するすべてのものが外へと飛び出し、
The sky rejoices in the morning’s birth;
空は朝の訪れを喜びに満ちて迎える;
The grass is bright with rain-drops;—on the moors
草には雨粒が輝いている;—荒野の上には
The hare is running races in her mirth;
野ウサギが楽しげに走り回っている;
And with her feet she from the plashy earth
そしてぬかるんだ地面を足で蹴り上げ、
Raises a mist; that, glittering in the sun,
日光を浴びてきらめく霧を舞い上げるのだ。
And now I see with eye serene
そして私は、穏やかなまなざしで見つめる、
The very pulse of the machine;
この自然の機械の心臓の鼓動を;
A being breathing thoughtful breath,
思慮深い息遣いをする存在の姿を、
A Traveller between life and death;
生と死のあわいを行く旅人のようだと感じながら;
The reason firm, the temperate will,
揺るぎない理性と節度ある意志を持ち、
Endurance, foresight, strength, and skill;
忍耐、先見性、強さ、そして技を備えているのだ;
A perfect Woman, nobly planned,
高貴な設計によって造られた完璧な女性のように、
To warn, to comfort, and command;
警告し、慰め、そして導く存在;
And yet a Spirit still, and bright
しかもいまだ魂として輝き続け、
With something of angelic light.
天使の光を宿しているかのようだ。
And thus she grew…
かくして彼女は育っていった…
I was a Traveller then upon the moor;
私はそのとき荒野の上を進む旅人だった;
I saw the hare that raced about with joy;
喜びに満ちて駆け回る野ウサギを目にし、
I heard the woods and distant waters roar;
森や遠くの水音の轟きを耳にし、
Or heard them not, as happy as a boy:
あるいは少年のように無心で、それらに耳を傾けもしなかった;
The pleasant season did my heart employ:
この心地よい季節が私の心を満たし、
My old remembrances went from me wholly;
古い記憶はすべて消え去ってしまった;
And all the ways of men, so vain and melancholy.
そして人の世のむなしさや憂いはすべて忘れたのだ。
But, as it sometimes chanceth, from the might
しかし、それは時に起こることだが、強烈な喜びの後には
Of joy in minds that can no further go,
もう先へ進めぬほどの高揚が訪れることがある、
As high as we have mounted in delight
私たちの歓喜がいくら高みへと登ろうとも、
In our dejection do we sink as low;
落ち込むときにはそれと同じ深さまで沈んでしまうのだ;
To me that morning did it happen so;
その朝、まさに私にそれが起こった;
And fears and fancies thick upon me came;
恐れや幻影が次々と胸をよぎり、
Dim sadness—and blind thoughts, I knew not, nor could name.
理由も名もわからぬ漠然とした哀しみや盲目的な思いに襲われた。
I heard the sky-lark warbling in the sky;
空ではヒバリがさえずっていたが、
And I bethought me of the lonely road
私は自分が行く孤独な道を思い、
Of weary moors, and ways beset with snow or sleet;
うんざりするほど続く荒野や雪、霙に閉ざされた道を思い描いた;
And of old men, and maidens yet unborn,
そして年老いた人々や、まだ生まれていない娘たちのことを思い、
And many a face which long has been forgotten;
すでに忘れ去られてしまった多くの面影を胸に呼び起こした;
And of the things which will be and which are,
そして、これから起こること、今まさにあることを思い、
And all the follies of the world came thick into my mind;
世のあらゆる愚行が私の思考を埋め尽くした;
And I was overcome by a deep dismay,
そして深い不安に打ちひしがれたそのとき、
And all my happiness seemed taken away.
幸せのすべてが失われてしまったかのように感じたのだ。
As a huge stone is sometimes seen to lie
時に巨大な石がそこに横たわるように、
Couched on the bald top of an eminence,
頂の禿山の上にうずくまるように、
Wonder to all who do the same espy,
見る者すべてに驚きをもたらすように、
By what means it could thither come and whence;
いったいどうやってそこに来たのか、どこから来たのか不思議に思わせるように;
So that it seems a thing endued with sense:
まるで感覚を宿した物体のように見えるのだ:
Like a Sea-beast crawled forth, that on a shelf
まるで岩棚に這い出てきた海獣のように、
Of rock or sand reposeth, there to sun itself;
岩や砂の棚の上に身を横たえ、日を浴びているように;
Such seemed this Man, not all alive nor dead,
この男もまるで生と死の狭間にあるかのように見えた、
Nor altogether sleeping nor awake;
眠っているのでもなければ目覚めているとも言えない、
Nothing about him show’d nor forward tread;
足取りは進むとも見えず、何も示してはいなかった;
He seemed the ghost of the man who once had been;
彼はかつて人であった者の亡霊かとも思えた、
A presence like a dream—
まるで夢の中の存在のように—
yet thus he spake to me:
それでも彼は私にこう語りかけた:
"I pick up leeches for my bread,
「わしは生活の糧を得るためにヒルを集めているのだ、
And not doubtfully; for they are there,
そして確かなことだ、あいつらはそこにおる、
Though I do not see them; but I know where.
見えはせんが、どこにいるかはわかっておる。
And I am old, and the burden of years
わしは年老い、この年月の重みに耐えてきた、
Is heavy on me; many a time has been
この荷は重いが、何度となく背負ってきた;
I still must labor on, and hope to find
それでもなお働き続け、いつかは見つけられると望み、
These creatures that do me sustain—"
わしを生かすあの生き物を求めるのだ—」
The old Man still stood talking by my side;
老人はなおも私のそばで語り続け、
But now his voice to me was like a stream
だが今や彼の声は、私には小川のように聞こえた、
Scarce heard; nor word from word could I divide;
ほとんど聞き取れず、一言ひとこと区別できないくらいに;
And the whole body of the Man did seem
そしてその男全体がまるで、
Like one whom I had met with in a dream;
夢の中で出会った人物のように見えたのだ;
Or like a man from some far region sent,
あるいは遠い世界から送り込まれた人のように、
To give me human strength, by apt admonishment.
その適切な助言によって私に人間としての強さを与えるために来たようにも思えた。
I turned away, and walked along my road
私は振り返り、自分の道を歩み続けた、
In happiness and grace: what I had seen
幸せと感謝の念を抱いて。私が見た光景は、
And heard, did on me work as I suppose
私の内面に強い働きかけを与えたのだろう、
To heighten all my powers of mind, and cleanse
思考の力を高め、心を浄化し、
My spirit from all fretful vanities;
焦燥や虚栄から魂を解き放ってくれた;
And, calm in prospect, I have set my sail
そして、平穏な未来を見据えて、私は帆を張った、
For seas untried, and shores that never fail.
まだ見ぬ海へ向けて、決して揺るがぬ岸辺へと漕ぎ出すために。

「Resolution and Independence(決意と独立)」は、ウィリアム・ワーズワースが自然の風景と人との不思議な出会いを通じて、精神の回復や自立心の重要性を描いた長編詩です。詩中では、荒野を歩む詩人(語り手)が、得体の知れない落ち込みや不安に襲われる場面から始まります。しかしその後、ヒル採り(ヒルを集めて生活の糧を得ている老人)に出会い、彼の生き方と言葉を通じて、粘り強く地道に働く姿に触れます。これによって詩人は心の支えを得て、再び前向きな気持ちで歩み出す契機を得るのです。

この老人の姿は、地味で厳しい労働であっても己の意志を失わず、人生を乗り越えていく典型として描かれています。老人の静かな強さは、華やかな世界とは無縁であっても、人間が本来持つ内面的な力に目を向けさせるものです。ワーズワースは、老人との短い対話に詩人が深い啓示を受ける様子を、自然の美しさとあいまって象徴的に示しています。

本作はロマン派文学らしく、自然への賛美や人間存在の儚さ・崇高さを見事に描写しながら、同時に人間同士の触れ合いがもたらす力を強調しています。ささやかな出会いが、大きな精神的転換点になり得ることを、シンプルで力強い語り口で展開しているのが特徴です。詩人が落ち込みから抜け出し、自身の内なる決意を再確認する過程は、読者にも諦めない気持ちや独立した精神を取り戻すきっかけを与えてくれます。

要点

・自然の絶景と人間の内なる不安を対比させつつ、他者の存在が精神的支えとなることを示唆する。
・ヒル採りの老人は、地味な労働に耐えながらも志を失わない象徴として、詩人の意識を高める役割を果たす。
・短い対話やちょっとした出会いがもたらす大きな変化こそが、人間の心に深い影響を及ぼすというロマン派的な視点が強調されている。

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