[古典名詩] 贈花卿(ぞうかけい) - 滅多に聴けぬ天上の名曲への賛嘆

A Tribute to Hua Qing

A Tribute to Hua Qing - Du Fu

/赠花卿 - 杜甫/

天上の旋律に魅せられる幻の音色を讃える詩

錦城絲管日紛紛,
錦城(きんじょう)では糸竹の楽の音が、日がな乱れ響き、
In Brocade City, flutes and strings resound in endless daily clamor,
半入江風半入雲。
その半ばは川辺の風に乗り、また半ばは雲へと昇っていく。
Half carried on the river breeze, half drifting among the clouds.
此曲只應天上有,
この曲はきっと天上にこそあるもの、
Such music must be found only in celestial realms,
人間能得幾回聞?
人の世ではいったい何度耳にすることができようか。
How many times can mere mortals hope to hear it?

杜甫(とほ)が詠んだ『贈花卿(ぞうかけい)』は、音楽の美しさを通じて人間界と天上世界を対比させる短いながらも印象的な七言絶句です。作品の主題は、世にも稀なる絶妙な音楽がもたらす感動と、その尊さを強調する点にあります。詩に登場する「錦城」とは、成都を指すとされ、当時の繁華と文化の豊かさを象徴していました。

冒頭の「錦城絲管日紛紛」では、都の賑わいの中で弦楽器や管楽器の音が絶えず鳴り響く様子が描かれています。それは日常の忙しなさと同時に華やかさをも映し出すイメージですが、続く「半入江風半入雲」で、楽音が川風と雲へ溶け込んでいくように示されることで、次第に現実を超えた幻想的な空気が漂い始めます。

後半の「此曲只應天上有,人間能得幾回聞?」は、まさにクライマックスといえる名文句です。人間の住む世界をはるかに超えた“天上の音”を耳にする機会など、そう多くはあるまいという問いかけが詩を閉じます。ここには、圧倒的な美にふと触れたときの感動や畏怖の念が凝縮されており、同時に杜甫の繊細な感受性が映し出されているのです。

当時の杜甫は政治的にも不遇を囲い、家族や生活に苦労し続けた生涯を送りました。しかし、その反面で彼は音楽や芸術、あるいは自然の景観に対して人一倍敏感な心を持っていたことが多くの作品からうかがえます。この詩も、華美な都の中で耳にした名曲に深く感動し、それを「天上の曲」と表現することで、自身が追い求める理想的な美や、ひとときの救済感を強くアピールしていると考えられます。

『贈花卿』は、技巧を凝縮しつつも難解な理屈ではなく、耳で聴き取る“音”が心に直接響く感覚を素直に詠み込んだ点が特徴といえます。短い四句の中に、音楽が持つ奇跡的な力、それに対する詩人の純粋な憧れが色濃く反映されており、読む者の胸にも深い印象を残し続ける名作となっています。

要点

• 華やかな都・成都(錦城)で響く糸竹の美音を絶賛
• 音楽の神秘的な力を、天上と地上の対比で強調
• 官途や貧窮に苦しむ杜甫が、一瞬の芸術の美に救われる想い
• 短い詩句に凝縮された、聴覚的・幻想的なイメージが魅力

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