[古典名詩] 「小さな黒人の少年」 - 肌の色を超えた魂の平等を示す詩の概要

The Little Black Boy

The Little Black Boy - William Blake

「小さな黒人の少年」 - ウィリアム・ブレイク

魂の平等を説く少年の視点が描かれる詩

My mother bore me in the southern wild,
母はわたしを南の荒野で産み落とした、
And I am black, but O! my soul is white;
わたしは肌こそ黒いが、ああ、魂は白く澄んでいる。
White as an angel is the English child:
天使のように白いのは、イギリスの子どもたち、
But I am black, as if bereav’d of light.
しかしわたしはまるで光を奪われたように黒い。
My mother taught me underneath a tree,
母は木陰に腰を下ろし、わたしに教えを説いた、
And sitting down before the heat of day,
まだ日の暑さが本格化する前に座り、
She took me on her lap and kisséd me,
わたしを膝の上に乗せ、口づけを与え、
And pointing to the east began to say.
東の空を指さして話し始めたのだ。
"Look on the rising sun: there God does live,
「昇る太陽を見なさい。そこに神がいらっしゃり、
And gives his light, and gives his heat away,
光と熱を惜しみなく与えてくださるのよ。
And flowers and trees and beasts and men receive
花も木も獣も人も、みなその恵みを受け、
Comfort in morning, joy in the noonday."
朝は安らぎ、正午には歓びに包まれるのよ。」
"And we are put on earth a little space,
「わたしたちは地上にしばし置かれ、
That we may learn to bear the beams of love;
愛の光を受け止める術を学ぶのです。
And these black bodies and this sun-burnt face
この黒い肌や日焼けした顔は、
Is but a cloud, and like a shady grove."
ただの雲のようなもので、木立の陰にも似たものよ。」
"For when our souls have learn’d the heat to bear
「魂がこの熱を受け止められるようになれば、
The cloud will vanish; we shall hear his voice,
雲は消え去り、神の声を耳にするでしょう、
Saying: ‘Come out from the grove, my love & care,
『木立の陰から出ておいで、わたしの愛し子よ、
And round my golden tent like lambs rejoice.’"
黄金の幕営を囲んで、小羊のように歓喜しなさい』と。」
Thus did my mother say and kisséd me,
母はそう語り、わたしに口づけをし、
And thus I say to little English boy.
そしてわたしもまた、小さなイギリスの少年にこう話すのです。
When I from black and he from white cloud free,
わたしが黒い雲から、彼が白い雲から解き放たれ、
And round the tent of God like lambs we joy:
神の幕営を囲んで、小羊のように共に喜ぶとき、
I’ll shade him from the heat till he can bear,
わたしは彼が耐えられるまで、その熱から守ってあげよう、
To lean in joy upon our father’s knee;
わたしたちの父なる神の膝に、歓びのうちにもたれるまで。
And then I’ll stand and stroke his silver hair,
そして、わたしは立ち上がり、彼の銀色の髪をなで、
And be like him and he will then love me.
彼と等しくなり、そうして彼はわたしを愛してくれるでしょう。

「小さな黒人の少年(The Little Black Boy)」は、ウィリアム・ブレイクの『無垢の歌(Songs of Innocence)』に収録され、当時の人種差別や社会の不平等に対するメッセージを象徴的に描き出した作品です。詩全体を通じて、外見の違いを超越する魂の平等や、神の下での愛と受容が強く示唆されています。

冒頭では、黒人の少年が自分の肌の色を嘆きながらも、実は内面に“白く澄んだ魂”を持つと宣言します。対比として提示される「イギリスの白い子ども」は、当時の社会で象徴的な優位を与えられていた存在を表すと同時に、少年自身が憧れを抱く対象とも言えます。しかし、母親は木陰で優しく子どもを抱き寄せ、“真の光は太陽にあり、すべての生命に平等に降り注ぐ”という教えを授けます。黒い肌や白い肌といった表面的な差異は、神の愛という大いなる光を学ぶまでの“雲”であるという見方は、宗教的な救済観と平等思想が繋がったブレイクの独自の視点を反映しています。

少年は母の教えを胸に、同じく幼いイギリスの少年に向かって「雲から解き放たれた暁には、共に神のもとで小羊のように歓喜しよう」と呼びかけます。ここで描かれる姿は、外面的な違いを超えた真の交流を夢見る人間の理想像を示すものです。彼が最終的に白人の少年を“熱から守り、神の膝に近づけようとする”というシーンは、むしろ黒人の少年が精神的な保護者の役割を担う姿とも言え、人種や社会的立場の逆転を含んだ強いメッセージを秘めています。

こうした内容からもわかるように、「小さな黒人の少年」は単に肌の色の違いにフォーカスしただけではなく、“神の光”という普遍的な愛の象徴を通じて、人種の壁を崩し、人々が等しく救いや希望を分かち合うべきだというテーマを掲げている詩だと言えます。ブレイクは当時の社会における差別や階級意識を詩的に批判しながらも、無垢な視点から見る世界では、人々は神の愛の下で対等であり得ることを強く訴えています。

本作品は『無垢の歌』に位置づけられる一方、その奥にある社会批判と人間平等のテーマは、ブレイクが『経験の歌』で深く掘り下げた社会問題への洞察と同じ流れの中にあります。短い詩の中に、母子のやり取りや太陽=神の光、そして白人の少年との邂逅など、多層的な象徴が凝縮されており、現代の読者にとっても差別を考える上で重要な示唆を与えてくれる作品です。

要点

• 肌の色の違いに対して、魂の平等と神の愛がテーマ
• “黒い肌は雲のようなもので、やがて消え去る”という視点が差別を超える象徴となる
• 母の優しい教えが、外見よりも内面の真実を重視するブレイクの思想を体現
• 黒人の少年が他者を守る存在として描かれる逆転構造が、人種間の理解と平和を訴える

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