南园十三首(其六) - 李贺
南園十三首(其六) - 李賀
南园十三首(其六) - 李贺
南園十三首(其六) - 李賀
「南園十三首(其六)」は、唐代の詩人・李賀(りが)が連作として残した『南園十三首』のうちの一篇です。李賀といえば、幻想性や奇抜なイメージを巧みに織り交ぜる“詩鬼”として知られますが、この詩の冒頭は鮮やかな花や草木が春の庭を彩る、みずみずしい情景で始まります。
第一句「自愛殷紅鋪嫩枝」は、濃赤の花が柔らかな枝を覆うように咲いている様子を端的に描いており、目に飛び込む鮮烈な色彩が印象的です。続く二句目で示される「小闌幽草杏花滋」は、小さな柵(闌)に添うように咲き誇る草木と杏の花の風情をやさしく表現しています。李賀特有の大胆なイメージや奇異な描写が比較的抑えられており、穏やかな春景が前半の主調を成しているのが特徴です。
後半の「青鸞不信丹山遠,試向春園擬小詩。」で一気に李賀らしさが顕在化します。青鸞(青い鸞鳥)は中国神話や伝説のなかで神聖あるいは吉兆を表す存在とされ、丹山はその鳥が住むといわれる仙境のイメージを喚起する地名です。鳥が「丹山は遠くない」と言わんばかりに、いま目の前の春の庭で詩を綴ろうとする姿は、日常の風景を超えて幻想的な仙境へ通じていくような暗示を伴っています。これは一見平和な春景に、李賀独特の神秘性を吹き込む効果を生み出しています。
唐代の人々にとって、春は生命の息吹と再生を感じさせる特別な季節でした。そこに神獣や仙境を思わせるモチーフを重ね合わせることで、ひときわ豊かな叙情を引き出しているのです。李賀は壮麗で奇異な世界を得意とする詩人ですが、本作では自然描写と伝説的要素がほどよく融合し、幻想性と親しみやすさがバランスよく同居しています。短い四句の中に、春の陽気だけでなく、どこか超越的な世界への小さな入り口を感じさせる点が、この詩の大きな魅力と言えるでしょう。
・濃い赤の花や杏の花など、春の庭の豊かな色彩が際立つ
・青い鸞鳥(青鸞)と丹山の伝説を組み合わせた幻想的イメージ
・李賀特有の“詩鬼”スタイルながら、静かな叙景と神秘が融合
・自然と仙境の間を行き来するような詩的空間をわずか四句で表現
・連作『南園十三首』の中でも、比較的平和な春景を背景に神秘的要素を覗かせる佳品