Infant Joy - William Blake
「幼子の歓び」 - ウィリアム・ブレイク
Infant Joy - William Blake
「幼子の歓び」 - ウィリアム・ブレイク
ウィリアム・ブレイクの「幼子の歓び(Infant Joy)」は、『無垢の歌(Songs of Innocence)』に収録されている、誕生したばかりの生命への祝福と喜びを主題とした詩です。全体的にシンプルな構成でありながら、幼子の純粋さや幸福感が鮮明に描き出されている点が大きな特徴と言えます。
まず、幼子が自らを「名前がない」と語りながら、実は「歓び(Joy)」と呼ぶ場面は、とても象徴的です。誕生して間もない幼子にとっては、まだ定まった名前や社会的な役割がありません。しかし、その存在自体が「歓び」にほかならないという宣言によって、生命の誕生がもたらす尊さや満ちあふれる希望が巧みに示されています。
また、本作には二つの視点が織り交ぜられているように読めます。一方では、「わたし」として語る幼子自身の声。もう一方では、それを包み込むかのように呼びかける別の声(母親や保護者、あるいは詩人自身)です。二人が交互に呼びかけ合うような形で言葉が進み、最後には幼子のほほえみに合わせて歌を添えるシーンが印象的です。愛情と安心感に包まれたやり取りが、詩の持つ温かく軽やかな雰囲気を生み出していると言えるでしょう。
タイトルにある「Infant Joy」という言葉は、ブレイクの中でも特に“無垢”を象徴するイメージと結びついており、大人や社会の固定観念に染まる前の完全な純粋性を強調します。また、この作品は同じ『無垢の歌』に収録された「Infant Sorrow(幼子の悲しみ)」と対比的に読むことで、一方的な幸福感だけでなく、誕生に伴う痛みや不安までもがブレイクの詩作のテーマであったことが分かります。そうした対比は、ブレイクが“無垢”と“経験”という両極の世界観を往来しながら、人間の本質を探求していた証でもあるでしょう。
とはいえ、「幼子の歓び」は基本的に希望に満ちた詩であり、最後の行では「甘やかな歓びがあなたを包みますように!」という祝福の言葉で締めくくられます。読み手の心には、ほのぼのとした優しさや小さな命が持つ力強さが残ることでしょう。ブレイクの作品の中でも、そのシンプルさと明るいトーンゆえに、子どもの輝きを讃える詩として親しまれています。
総じて、本作は新生児の存在がもつ無垢さと、愛による包み込まれる感覚とが織りなす幸福感を詩的に提示している作品です。誕生の瞬間に生まれる驚きや感動を、わずかな言葉数の中で凝縮しながら、読者の内面にそっと語りかける力をもっています。「Infant Joy」は、その詩題どおり、純粋な“歓び”をめぐる象徴的なメッセージを私たちに伝えていると言えるでしょう。
• 新生児の純粋さと存在自体の尊さを強調
• 他者の呼びかけと幼子の声が交錯し、愛情と温もりを描写
• 『無垢の歌』内の作品であり、誕生の希望と喜びがテーマ
• シンプルな言葉遣いながら、ブレイクの象徴表現が際立つ