[古典名詩] 一剪梅(中夜起看) - 詩の概要

A Twig of Mume (Rising at Midnight to Gaze)

一剪梅(中夜起看) - 李清照

一剪梅(中夜起看) - 李清照(リ・セイショウ)

寒夜に募る思いを映す繊細な調べ

中夜起看天已寒,
夜半に目覚めて空を見れば、寒さいよいよ深まる。
Rising at midnight to behold the sky, I find the chill ever greater.
疏星闪闪,露重风幽残。
まばらな星が瞬き、露は深く、風には寂しい気配が宿る。
Sparse stars flicker; dew lies heavy, the wind carries a forlorn whisper.
小阁灯昏不成寐,
小さな閣で灯りがかすれ、眠りにつくこともままならない。
In my small chamber, the dim lamp fails to soothe me to sleep.
此际情怀,半是旧愁添。
胸の内によぎる想いの半ばは、かつての憂いをさらに重ねるばかり。
At this moment, half my thoughts are laced with old sorrows renewed.
谁念此时肠暗断?
今この胸をこらしめる思いを、いったい誰が察してくれるのか。
Who can fathom the silent ache now gnawing at my heart?
月下依栏,依旧是千山。
月光を浴びて欄に寄りかかると、相変わらず山々は遠く連なっている。
Leaning by the railing under moonlight, the same distant mountains stretch on and on.

李清照(リ・セイショウ)は北宋末から南宋にかけて活躍した女流詞人であり、その作品は繊細な恋情や別離の哀愁、また動乱に翻弄される時代背景を強く反映しています。『一剪梅(中夜起看)』は、その中でも深夜の静寂の中に募る思いや、再び沸き起こる過去の憂いを重ね合わせることで独特の叙情を醸し出す作品といえます。

タイトルにある「一剪梅」は詞牌(しはい)の名称であり、本詞がその形式で書かれていることを意味します。冒頭の「中夜起看天已寒」という一句は、真夜中にふと目覚め、冷え込む夜空を見上げる瞬間を鮮明に捉えており、その寒さが単なる気候だけでなく、心の内にも及んでいることを暗示します。続く句では、閑散とした星や深い露、物悲しい風の描写が、孤独感や憂愁と相乗して一層の寂寥感を演出しています。

この詞の中心をなすのは、やはり「眠れぬ夜」に募る想いです。灯火が心許なく揺れる小さな閣の中で、作者は眠れずに過去の思いや現在の不安と向き合わざるを得ません。そこには、李清照自身の経験—例えば夫との死別や戦火による離散といった様々な苦難—が投影されているとも読めます。過ぎ去った出来事への哀愁は決して消えず、夜という静寂の時間には、むしろより鮮明に姿を現してくるのです。

終盤に至っても、遠くに連なる山々や月下の景色に癒される気配はうかがえず、想いはなお胸を締めつけ続けます。もっとも、李清照の詞にはこうした深い嘆きや孤独が折に触れて描かれながらも、自然の美しさを介してわずかな光を見出そうとする姿勢が感じられるのも特徴です。この作品でも、夜空に瞬く星や月光を浴びる山々など、静謐ながらもどこか詩的な光景が広がり、読後に淡い余韻を残します。

言葉数の限られた詞の中に、季節や時刻の移ろい、そして作者の深層的な感情の揺れが巧みに交錯して描き出されることが、李清照作品の魅力です。『一剪梅(中夜起看)』も、その濃密な抒情性ゆえに昔から広く愛誦され、彼女の代表的作風のひとつとして古今の読者の心をとらえ続けています。

要点

・真夜中の冷え込みとともに甦る過去の憂い
・眠れぬ中で感じる孤独と深まる内面の対話
・自然の美(星や月、山など)に象徴される静謐と寂寥の対比
・李清照特有の繊細な情感と余韻を残す描写が際立つ一篇

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