蝶恋花(泪湿罗衣脂粉满) - 李清照
蝶恋花(ちょうれんか)(涙湿らす羅衣 脂粉満つ) - 李清照(り せいしょう)
蝶恋花(泪湿罗衣脂粉满) - 李清照
蝶恋花(ちょうれんか)(涙湿らす羅衣 脂粉満つ) - 李清照(り せいしょう)
「蝶恋花(泪湿罗衣脂粉满)」は、宋代を代表する女性詞人・李清照による作品の一つで、別離と人生の儚さを繊細な筆致で描き出しています。
詞の冒頭「泪湿罗衣脂粉满」からは、涙によって衣装が湿り、化粧がそのまま残るような深い哀切が伝わってきます。続く「四叠阳关,唱到千千遍」は、唐詩にも登場する「陽関三叠(別れの曲)」をさらに重ね合わせた表現であり、幾度も繰り返される別離の嘆きを暗示しています。
自然描写としては、「萧萧微雨闻孤馆」の一節に象徴されるように、細やかな雨音が心の底にまでしみ込み、寂しさを際立たせています。山や川が道を阻むといったイメージは、現実の旅の困難さだけではなく、心の内面をめぐる孤独や隔絶感をも投影しているかのようです。また、別れを惜しむあまり、出立の杯が深かったのか浅かったのかも意識できないという描写は、感情の昂りによる混乱をはっきりと示しています。
最後の「若问生涯原是梦,除梦里,没人知道」の部分では、人生を儚い夢にたとえ、それを真に理解できるのは夢の中だけだという、ある種の超然とした諦観が感じられます。李清照は度重なる戦乱や夫との死別など、波乱に富んだ生涯を送ったことが知られており、そうした人生経験が本作の底流にある独特の愁いと諦めの視点をより深めていると言えます。
全体として、華やかな「蝶恋花」という詞牌にもかかわらず、切なく哀愁の色が濃い仕上がりとなっています。歌い重ねられた別れと涙、そして人生のはかなさを巧みな景物や心理描写で結び合わせたこの詩は、李清照の文学的センスと深い感受性が際立つ名品と言えるでしょう。
・初句から涙で濡れた衣装を描くことで、作者の深い哀しみを印象付けている
・「陽関」の重奏や雨音といった自然要素を通じて、繊細な別離の感情を高める
・人生を夢に喩え、孤独と諦観を含む李清照の世界観が凝縮されている