[古典名詩] 尾犯(びはん)(夜雨滴空階) - 詩の概要

Weifan (Night Rain Dripping on the Empty Steps)

尾犯(夜雨滴空阶) - 柳永

尾犯(びはん)(夜雨滴空階) - 柳永(りゅうえい)

夜の雨に沁む孤独と哀愁が紡ぐ静謐な叙情

夜雨滴空阶,滋园林,润侵啼鴂。
夜の雨は静かな階にしみわたり、庭の樹木を潤し、鴂(ホトトギス)の鳴き声にも染み入るかのようだ。
Night rain drips upon silent steps, nurturing the garden’s trees, soaking into the cry of the cuckoo.
乱滴银筝,撼碎松窗噎。
乱れ落ちる雨音は銀の筝の調べのように響き、松の窓を揺らして胸を詰まらせる。
Its scattered drops resonate like silver zither strings, shaking the pine-framed windows, choking the heart.
且莫淡烟疏竹里,敲碎忆鸳鸯织。
かすかな煙の立ちこめる疎らな竹林で、鴛鴦の織物を思い出しては、その想いを打ち砕かないでほしい。
Amid faint mist and sparse bamboo, do not shatter memories of mandarin-duck embroidery.
蛙鼓连宵,惊破梦魂,犹怯空床曙色。
夜通し響く蛙の声に夢を破られ、空しい寝床の夜明けをいまだ恐れている。
Throughout the night, frogs croak, shattering dreams; still I cower before dawn’s emptiness.
华屋罗绮,无端独守,算只宜酬客。
華やかな屋敷と絹の装飾に囲まれているのに、なぜか一人きりで守り続ける。それは本来、客をもてなすための場所のはずなのに。
In a grand mansion adorned with silk, inexplicably alone, though these halls were meant to entertain guests.
风流千钟,误却秋心四塞。
幾千杯の酒を傾けるほどの風流も、深まる秋の思いに閉ざされ、何の慰めにもならない。
Though refined enough to drink a thousand cups, my autumnal heart is sealed away in futility.
寻常莫道多情唤,盈盈一片山河隔。
普段は多情だと言われる私の想いも、広がる山河に隔てられて届かない。
Though often deemed full of affection, it remains distant, separated by vast rivers and mountains.
凭仗春情,有情即是,一去从教山国。
春の情感に身を委ねるとはいえ、愛があるならそれでいい。どんなに遠い地へ旅立とうと、その想いは変わらないのだ。
Relying on spring’s passion, if there is feeling, that alone suffices—even should I journey to distant lands.

柳永(りゅうえい)は宋代を代表する詞人であり、その作品は繊細で抒情的な表現が特徴とされています。「尾犯(夜雨滴空階)」は夜の雨音をとおして、人の内面に広がる孤独や哀愁、遠く隔たれた想いを描き出した詞です。

冒頭の「夜雨滴空阶」は、しんしんと降り続く夜の雨が階(きざはし)に滲む情景を描写しながら、庭の樹木や鴂(ホトトギス)の声にも染み込むかのように繊細な情感をまとっています。雨音はまるで銀の筝の調べのように響き、詩人の心をかき乱す――そんな視覚と聴覚のコントラストが印象的です。

途中で現れる「淡烟疏竹」「蛙鼓連宵」といった自然の描写は、夜の静寂の中にかすかな音や淡い影を際立たせる効果をもたらします。それにより、詩人の孤独感やもの悲しさがさらに深まっていきます。華やかな屋敷や絹の装飾がありながらも一人きりでそれを守る姿は、外面的な豊かさと内面的な寂しさの対比を象徴しており、柳永特有の感傷的かつ優美な世界観を浮き彫りにしています。

また、「多情」と見なされる心情が遠く離れた山河によって隔たれている様は、愛や思慕が簡単には届かない現実を叙情的に表現しています。しかし最後には「有情即是,一去从教山国(想いがあればそれで十分。たとえ遠く山国へ去ろうとも構わない)」という言葉で、距離や境遇を越えてなお続く思いの強さを暗示し、読者の胸にかすかな希望を灯します。

全体として、この詞は夜の雨という身近な自然現象を軸に、感受性豊かに移ろう心を丁寧に描き出した作品です。雨音や蛙の声、竹林に漂う淡い煙といった小さな描写が連なり、格調高い言葉の中に強い感傷と余韻を残しています。柳永の詩風である華麗さと繊細さ、そして哀愁のバランスを味わうことのできる代表的な一篇と言えるでしょう。

要点

・夜の雨や蛙の声といった自然音が、深い孤独感を際立たせる
・華やかな外面と孤独な内面の対比が印象的
・遠く隔たれた想いが存在しても、情の強さが詩全体を支えている

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