[古典名詩] 青門柳(せいもんりゅう) - 春のやわらかな柳に映る別れ

Green Gate Willows

青门柳 - 白居易

青門柳(せいもんりゅう) - 白居易(はくきょい)

春風に揺れる柳が伝える別離の情

青門柳色映春城,萬縷絲條拂面輕。
青門に連なる柳の緑は春の街を染め、幾重にも垂れる細枝が頬をかすめるように揺れる。
At the Green Gate, willow branches tint the spring city; countless silken strands lightly brush the face.
別淚未干君去後,夕陽猶照故人情。
君と別れたばかりで、まだ涙は乾かぬまま。沈む夕陽が、いまだに旧友への思いを照らし出す。
Tears of parting remain unquenched after your departure; the setting sun still illuminates the affection once shared.

この詩は、春の訪れを告げる柳の景色を通して、別離の哀愁や友情を描いた作品です。詩題にある「青門」とは、かつて長安(現代の西安)にあった門の名を指すとされますが、実際には象徴的に“都の入口”のような場所を表すこともあります。そこに茂る柳は、中国古典詩において頻繁に用いられる別離のモチーフです。柳の枝は柔らかく垂れ下がり、風とともに揺れるため、去りゆく人を見送るイメージと結びつくと考えられてきました。

第一句では、春の城下に広がる柳の鮮やかな緑が、見る者の心を一瞬にして季節の歓びへ引き込んでいます。しかし、続く第二句で柳の枝が「拂面輕(ほつめんけい)」、つまり頬をかすめるように軽やかに揺れる情景は、ふとしたはかなさや切なさを感じさせます。春は出会いや芽吹きの季節である一方、進学や就職、官職への赴任など、人が別れを経験する時期でもあり、それが詩の背後にある哀愁を深めているのです。

第三句では「別淚未干君去後(別れの涙がまだ乾かぬうちに君は去ってしまった)」という叙景により、短い時間の中でも別離の痛みが深く胸に刻まれているさまが伝えられます。作者である白居易(はくきょい)は、官職生活の中で赴任地を転々とすることも多く、友人や家族との別れを何度も経験しました。そのため、こうした別離の詩は読者の心により強い共感を呼び起こします。

最後の一句「夕陽猶照故人情(沈む夕陽がいまだに旧友への思いを照らしている)」が印象的です。夕陽はまさに一日の終わりを告げるものですが、赤く染まる空はどこか心を締めつけるような余韻を残します。そこに、まだ乾ききらない涙や友への尽きない思いを重ねることで、別れがもたらす切なさや名残惜しさが強調されているのです。

同時に、「猶照(なお照らす)」という言い回しに救いのニュアンスも含まれています。太陽が沈んでしまう直前の最後のひとときに、過去の思い出が温かく照らされるような感覚、それは作者にとっての希望であり、別れてなお絶えることのない絆の存在を示唆しているとも読めます。白居易の詩は、その平易な言葉遣いと練り込まれた情景描写が魅力で、こうしたわずかな言い回しで希望や温かさを宿らせる点が特徴的です。

本作の「青門柳」は、読者にとっても、かつて誰かと交わした大切な瞬間や別離の記憶を呼び起こすものになるでしょう。中国詩のなかでも柳は変化に富む季節の象徴であり、旅立ちや別れを巧みに映し出す手段として長く親しまれてきました。そうした伝統的なモチーフと、白居易独特の温かくどこか切ない語り口とが相まって、この詩は多くの人の胸に深い余韻をもたらしています。

要点

・柳を別離のモチーフとして、春の切なさを描く
・短い言葉で哀愁と同時に仄かな希望を暗示
・「夕陽」や「涙」などの情感豊かなイメージが心に残る
・白居易特有の平易な表現が、多くの人の共感を呼ぶ要因となっている

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