秋来 - 李贺
秋来 - 李賀
秋来 - 李贺
秋来 - 李賀
「秋来」は、唐代中期を代表する詩人の一人、李賀(りが)の世界観を端的に示す短詩と考えられています。わずか四句の中に、冷え込む秋の夜の情景や、人知れぬ孤独感、そしてどこか神秘的な幻影が重ねられ、深い余韻を残す構成が特徴的です。
冒頭の「寒燈向壁語」は、夜の闇の中で灯火が壁を照らす様子を擬人化し、まるで灯火自身が“語りかける”かのように表現されています。李賀ならではの幻想的な捉え方が、読者を日常の境界から一歩踏み出させ、詩的な空間へと誘います。次の「紅葉翻過幾度霜」は、赤く染まった葉が霜を経て落葉していく秋の移ろいを示すと同時に、人生の盛衰や無常観をさりげなく暗示していると読むこともできます。
続く「盜夢驚心聞夜漏」は、夢を“盗む”という大胆な表現が目を引きます。夜が更けるとともに、水滴や更鼓の音(夜漏)が刻む時間の経過に胸を突かれ、心がざわめく感覚を鋭くとらえた一句です。李賀の詩にはこうした“非現実への飛躍”がしばしば見られ、夢や幻覚が現実と入り混じる感覚を読者に与えます。最後の「天河曳影下城隍」は、天の川が地上へと降りてくる幻想的な場面を思わせ、夜の静謐な街並みを背景に“神仏や異界との接点”を描き出します。城隍(じょうこう)とは、中国の都市や地域を守護する神を祀った廟を指し、夜半に天の川がその廟へ影を曳いて降り立つというビジョンが一瞬のうちに広がり、詩は幕を閉じます。
李賀の作品は、儚さと美しさ、さらに深い陰影とが複雑に絡み合い、読む者に独特の衝撃を与えます。本作においても、秋の寂しさをベースにしながら、神秘的なイメージが鮮烈に立ち現れては消えていく詩的風景が広がっています。短い四句ながらも、余白に満ちた解釈の多様性が李賀らしい魅力であり、唐代詩人の中でも突出した“詩鬼”の面影を伝えてくれる一篇と言えるでしょう。
・夜の灯火や紅葉、天の川など秋の情景と幻想性が融合
・“盗まれた夢”という大胆な表現で非現実へ読者を誘う
・城隍という民間信仰の存在を巧みに盛り込み、神秘的空気を高める
・わずか四句で時間の経過と異界との接点を示唆する凝縮性
・李賀特有の陰翳に満ちた美と孤独感が際立つ代表的な短詩