[古典名詩] 「初春に綴られた詩行」 - 春の訪れと人間社会への嘆きを描く詩の概要

Lines Written in Early Spring

Lines Written in Early Spring - William Wordsworth

「初春に綴られた詩行」 - ウィリアム・ワーズワース

春の息吹と人の在り方を対比する詩

I heard a thousand blended notes
千もの音が溶けあうのを聞いた
While in a grove I sat reclined,
森の中で身を寄せかけるように座りながら、
In that sweet mood when pleasant thoughts
楽しい思いが心に満ちる、あの甘やかな気分の中で、
Bring sad thoughts to the mind.
同時に悲しみをも呼び起こす不思議な感覚に浸っていた。
To her fair works did Nature link
自然はその美しい創造物を通じ、
The human soul that through me ran;
わたしの内を流れる人の魂と結びついていた;
And much it grieved my heart to think
そして深く心を痛めたのは、
What man has made of man.
人が人をどのように扱ってきたか、という考えだった。
Through primrose tufts, in that sweet bower,
あの甘美な木陰にはプリムローズの株があり、
The periwinkle trailed its wreaths;
ツルニチニチソウが花冠を垂れ下げていた;
And 'tis my faith that every flower
そしてわたしは信じている、すべての花は
Enjoys the air it breathes.
自らが吸い込む空気を楽しんでいるのだと。
The birds around me hopped and played,
わたしの周りでは鳥たちが飛び跳ね、遊び回り、
Their thoughts I cannot measure:—
その思考までは測り知れないけれど――
But the least motion which they made
しかし、彼らのわずかな動きも
It seemed a thrill of pleasure.
愉悦に震えているように見えたのだ。
The budding twigs spread out their fan,
芽吹く小枝は自らの扇を広げ、
To catch the breezy air;
そよ風をしっかり受け止める。
And I must think, do all I can,
わたしはどうしても考えずにはいられない、
That there was pleasure there.
そこには確かに歓びが宿っていると。
If this belief from heaven be sent,
もしもこの信念が天から授けられたものなら、
If such be Nature's holy plan,
それこそが自然の神聖なる計らいなのだとすれば、
Have I not reason to lament
わたしが嘆くのも無理はないではないか、
What man has made of man?
人が人を創り上げてきた、そのありようを。

「初春に綴られた詩行(Lines Written in Early Spring)」は、ウィリアム・ワーズワースが自然との交感を通じて、人間社会の在り方を深く考察するロマン主義の詩の代表作です。詩人が森の中に身を置き、鳥の鳴き声や花々に囲まれながら、目の前に広がる美しい自然と、それを堪能する心境を素朴に綴る一方で、人間社会が抱える矛盾や悲しみを鋭く対比させています。

第一連で語られる、千もの音が溶け合うような美しい調和の中で、作者は心地よい気分に浸る反面、悲しみの思いが同時に湧き上がると述べています。続く連では、人が人を損なうような行為に思いを寄せることで、自然に触れるほどに感じる“人間社会の歪み”というテーマが浮かび上がります。まるで、自然界では当たり前のように保たれている平和や調和が、社会では失われつつあることへの嘆きが、控えめながらも強く表現されているのです。

さらに詩中の花や鳥、若枝などのイメージは、生まれ出づる春の生命力を象徴します。ロマン主義の詩人であるワーズワースにとって、自然界は神聖な計らいにより調和と美が育まれる場であり、そこにこそ人間の本来の姿や喜びが映し出されると考えられます。しかし、作者は“人はどのように行動してきたか”という問いかけを通じて、この神聖なる自然との調和から人間がどれほど離れてしまったのかを改めて突きつけます。

結びの部分では、自然界で当たり前に営まれる歓びの姿に対して、人間が歩んできた道を嘆かざるを得ない現実が描かれます。「Have I not reason to lament / What man has made of man?(人が人を創り上げたものについて嘆くのも無理はない)」という一節は、産業革命や都市化が進行する当時の社会に対する批判とも読めますし、現代にも通じる普遍的な警鐘として受け止めることができます。

ワーズワースが強調するのは、自然が与えてくれる喜びや純粋さと、それを受け取るだけの心の余裕や素直さを人間は持ち得ているのかという問題です。自然と調和する感覚を取り戻すことで、人と人との関係にも真の優しさや愛が宿るのではないか――そんな問いを、春の訪れを象徴する景色を背景に、穏やかながら力強い言葉で読者へと投げかけています。

要点

• 春の森の静かな喜びと、人間社会の悲しみを対比
• 花や鳥、芽吹く枝など、自然の生き生きとした描写が印象的
• 人が人を苦しめてきた現実への嘆きが、自然の神聖性と対照的に浮かび上がる
• 自然との調和を取り戻すことが、人間らしい優しさや真の幸福につながるというロマン主義的思想

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