[古典名詩] リシダス - 詩の概要

Lycidas

Lycidas - John Milton

リシダス - ジョン・ミルトン

若き友を悼む牧歌的挽歌に込められた詩情

Yet once more, O ye Laurels, and once moreYe Myrtles brown, with Ivy never sere,
もう一度だけ、月桂樹よ、そしてもう一度だけ、枯れることなき常緑の蔦と共に、褐色のミルトルよ
I come to pluck your berries harsh and crude,
私はあなた方のまだ青く苦い実を摘みに来た
And with forc'd fingers rude,
不器用な指先で、無理やりそれを摘み取って
Shatter your leaves before the mellowing year.
季節が実る前に、あなた方の葉を散らしてしまうのだ
Bitter constraint, and sad occasion dear,
それはつらい強制と、深く悲しい出来事のため
Compels me to disturb your season due;
私はあなた方の本来の季節を乱さざるを得ない
For Lycidas is dead, dead ere his prime,
リシダスは死んだ――まだ若い盛りで世を去ってしまったのだ
Young Lycidas, and hath not left his peer.
若きリシダスは、彼に並ぶ友を残さずに逝ってしまった
(excerpt)
(抜粋)

「リシダス(Lycidas)」は、ジョン・ミルトンが1637年頃に書いた牧歌的挽歌(パストラル・エレジー)の代表的作品です。ミルトンのケンブリッジ大学での友人エドワード・キングが若くして海難事故で亡くなったことをきっかけに執筆され、死者を悼むと同時に詩人としての使命感や宗教観が折り重なる構造をもっています。

作品は、ギリシャ・ローマの古典風の牧歌的な設定を借りながら、友人リシダス(エドワード・キング)の早すぎる死を嘆き、悲しみのなかで生と死、そして詩人の責務を問いかける内容となっています。ミルトンは古典的モチーフを多用する一方で、キリスト教的視点からの慰めや救済のイメージを交え、独特の宗教観を示します。ミルトンの特徴である豊富なアリュージョンや学識が、華麗な修辞を通じてリシダスの死を弔い、さらに詩人としての自己省察を深めるための仕掛けとなっています。

また、この作品には“若き才能ある友を失った悲哀”だけでなく、“真の牧者とは何か”という批判的・風刺的要素も含まれます。これは同時代の聖職者への風刺や宗教的腐敗への批判と結びつき、単なる挽歌を超えた社会的メッセージを帯びることになります。作品後半で提示される宗教的救済や死後の栄光は、リシダスが神に召されることで世俗の欠陥からも自由になるかのような、新しい視点を提示します。

全体として「リシダス」は、死者の追悼、詩人としての使命への自覚、そして時代状況への風刺が渾然一体となった構成が大きな魅力です。長大な叙事詩ではなく挽歌という形式ながら、深い学識と宗教観が凝縮されており、ミルトンの詩人としての感性を味わううえで欠かせない作品となっています。

要点

• ミルトンの親友エドワード・キングの死を悼む牧歌的挽歌
• 古典風の舞台設定とキリスト教的要素を融合し、“真の救済”や“詩人の使命”を追求
• 若き才能の喪失への嘆きと、当時の聖職者批判が同時に展開される
• 死者への哀悼と宗教的慰めが絡み合い、ミルトンの学識豊かな表現が冴えわたる名作

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