The Lamb - William Blake
「子羊」 - ウィリアム・ブレイク
The Lamb - William Blake
「子羊」 - ウィリアム・ブレイク
ウィリアム・ブレイクの「子羊(The Lamb)」は、『無垢の歌(Songs of Innocence)』に収録されている詩のひとつで、人間や自然が持つ清らかさと神聖な起源を浮き彫りにする作品です。本作は、子羊というシンボルを通じて、創造者に対する深い問いかけを柔らかく、しかも印象的に描き出しています。
第一連では、語り手が子羊に対して「誰があなたを作ったのか」を問いかけます。羊毛の衣をまとい、谷間に響く優しい鳴き声を持つ子羊は、何ものにも汚されない純粋な存在として登場します。その穏やかさや愛らしさから、読者は子羊に対する慈しみの感情を自然に抱くと同時に、このような無垢な被造物を生み出した存在への疑問を感じ取ります。
第二連では、詩の語り手が答えを提示し、子羊と呼ばれる“彼”が“子羊”と同じ名で呼ばれる理由に言及します。これはキリスト教的象徴を強く帯びた表現で、イエス・キリストが“神の子羊”と呼ばれることに結びついています。さらに「彼は小さな子供となった」と詩の中で語られるように、キリスト教の教えの根幹である受肉(神が人間の姿をとったという概念)を示唆しながら、作者は無垢さと神性の関係を暗に示しています。
ブレイクはこの詩を通じて、目に見える存在と神聖な意義とを重ね合わせ、善良なもの、無垢なものに神が内在していることを暗示します。子羊は自然界における弱く愛らしい存在ですが、神が意図的にこのような特徴を与えたという視点からは、世界には優しさと温もりが広がっていると読むことができます。一方で、同じ『無垢の歌』の対をなす作品として有名な「タイガー」では、強大で畏怖を催す存在がクローズアップされるため、両者を比較することでブレイクが思い描く世界の二面性や、善と畏怖、無垢と強大さといった正反対の要素を同時に創造した神の謎に迫ることができます。
このように、本作は子羊という象徴を通して、創造主や神性、そして無垢の持つ意味を読み手に問いかける奥深い作品です。朗らかな韻律とやさしい呼びかけによって、シンプルな形式の中でも豊かな宗教的・哲学的含意が感じられるのが特徴といえます。子羊に語りかける形をとることで、詩全体に対話的で温かみのある雰囲気が漂い、読者は思わず神聖なものへの愛着や敬意を抱くことでしょう。こうした詩作の手法が、ブレイクの作品に特徴的な「絵と言葉が織りなす神秘性」をより強固にしているのです。
• 子羊という象徴によって無垢や神性を強調
• キリスト教的要素を下地に、創造主の存在を示唆
• 他作品「タイガー」との対比で善と畏怖の二面性を浮き彫りに
• 対話的な語り口が、読者の内面に優しさと深い問いを呼び起こす