[古典名詩] 「愛の園」 - 禁じられた欲望を象徴する礼拝堂と愛の庭

The Garden of Love

The Garden of Love - William Blake

「愛の園」 - ウィリアム・ブレイク

抑圧される欲望と信仰の葛藤を映し出す詩

I went to the Garden of Love,
わたしは愛の園へ足を運んだ、
And saw what I never had seen:
そして今まで見たことのないものを目にしたのだ。
A Chapel was built in the midst,
真ん中には礼拝堂が建てられており、
Where I used to play on the green.
かつては緑の上で遊んだ場所だったのに。
And the gates of this Chapel were shut,
その礼拝堂の門は閉ざされ、
And "Thou shalt not." writ over the door;
「汝、すべからず」の言葉が扉に記されていた;
So I turn’d to the Garden of Love,
そこでわたしは愛の園へと目を戻した、
That so many sweet flowers bore;
そこはかつて数多くの美しい花を咲かせていたのだが、
And I saw it was filled with graves,
そこは墓で埋め尽くされており、
And tomb-stones where flowers should be:
花があるはずの場所には墓石があった。
And Priests in black gowns, were walking their rounds,
黒い法衣をまとった司祭たちが巡回し、
And binding with briars my joys & desires.
茨でわたしの歓びと欲望を縛り上げていたのだ。

ウィリアム・ブレイクの「愛の園(The Garden of Love)」は、『経験の歌(Songs of Experience)』の一篇として知られ、かつての自由な情愛や生命力が、宗教的・社会的抑圧によって歪められていく姿を描いています。詩全体を通して、解放感に満ちていたはずの“愛の園”が、閉ざされた礼拝堂と墓石で占められているという象徴的な構造が際立ちます。

第一連では、語り手が懐かしさを抱きながら“愛の園”に戻ってみると、そこには新たに礼拝堂が建てられ、自由に遊べたはずの場所を奪い去っていることが語られます。この礼拝堂の門は固く閉ざされ、扉には“汝、すべからず”という禁止の言葉(旧約聖書などの戒律を連想させるフレーズ)が刻まれているのが特徴的です。この光景は、かつての解放や喜びが何らかの権威的な力によって抑圧されている様子を暗示し、ブレイクが批判的に捉えていた当時の教会や社会制度が持つ制限や戒律の暗喩ともいえます。

続く連では、愛の園が墓石や灰色の風景に変貌していること、そして黒い法衣の司祭たちがそこを巡回していることが鮮明に描かれます。本来、美しい花が咲き誇り、生命の象徴とされるはずの庭が、死の象徴である“墓”に置き換わっているのです。ここで“司祭たちが茨でわたしの歓びと欲望を縛り上げていた”という表現は、宗教的権威が個人的な自由や願望を抑えつけるイメージを強烈に提示します。

ブレイクの作品にはしばしば「無垢」と「経験」という対立する要素が登場しますが、この詩はまさに“経験の領域”に位置づけられたもので、自由や純真さが失われ、抑圧と戒律が支配している世界を浮き彫りにします。『無垢の歌』における自然や子どもたちの躍動感とは異なり、ここでは生命力を押し込める社会的・宗教的機構への批判が色濃く表現されているのです。

本詩が象徴するのは、愛や欲望が本来もつはずの自然な在り方を、外部の権威が窮屈なルールと罪悪感でもって押し殺す構図です。ブレイクは、これを“愛の園”と“礼拝堂”のイメージ的な対比で見事に描き出しています。読み手は、この対比を通じて愛に対する封殺や背徳感がどのように生まれ、そして人間の内的自由が失われていくかを体感することができるでしょう。詩自体は単純な形式をとりながらも、背後にある社会批判と人間の内面をめぐる問題を、鋭い比喩で表現しているのが大きな魅力です。

総じて「愛の園」は、ブレイクの詩作において“無垢から経験へ”という移行を象徴する鮮明な例といえます。自由奔放だったはずの愛が、戒律の網と死のイメージで覆いつくされる姿は、そのまま社会や宗教制度がもつ圧力を痛烈に批判しています。現代にあっても、人間の自由な感情や欲求がさまざまな規範に縛られたり、禁止されたりする状況は多く、ブレイクの問いかけは古びることなく、私たちに衝撃と共感を与え続けています。

要点

• かつて自由で生き生きとしていた“愛の園”が礼拝堂と墓で満たされ、抑圧の空間に変貌
• 扉に刻まれた“汝、すべからず”が、宗教や権威による制限を象徴
• 司祭たちの巡回や茨の比喩を通じ、愛や欲望への抑圧と社会批判を強調
• ブレイク特有の「無垢」と「経験」という二面性の対比が鮮烈に表現される作品

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