Setting Off Early from Baidi City - Li Bai
/早发白帝城 - 李白/
Setting Off Early from Baidi City - Li Bai
/早发白帝城 - 李白/
この詩「早発白帝城(そうはつはくていじょう)」は、唐代の詩人・李白(りはく)が朝のうちに白帝城を出発し、江陵まで一日で到達した様子を描いた作品です。わずか四句の中に、旅のスピード感や自然の雄大な景観、そして旅立つ者の興奮と解放感が詰め込まれています。
まず注目すべきは「朝辞白帝彩云間(ちょうじはくていさいうんのかんをじす)」という冒頭の光景です。白帝城は三峡の上流に位置し、山や川に囲まれた地理的特徴をもつため、朝日に染まる雲の美しさが際立ちます。そこを出立する詩人の視線は、新しい旅への期待感に満ちあふれていると考えられます。
次に、「千里江陵一日還(せんりのこうりょういちにちにしてかえる)」のフレーズが示すように、通常なら時間のかかる長い行程を、あっという間に駆け抜けてしまうスピード感が印象的です。これは李白の詩によく見られる誇張表現でありながら、読者を爽快なイメージへと誘います。身体感覚としては不可能に近い距離を一日で行き来することで、詩の世界に不思議な活力を与えているのです。
さらに、「两岸猿声啼不住(りょうがんのえんせいなきやまず)」は三峡一帯での典型的な自然の姿を描き出します。猿の鳴き声が途切れずに響くことで、周囲の切り立った崖や深い渓谷の雰囲気を強調するとともに、旅人の耳に強く残る印象を与えています。そして最後の「軽舟已過万重山(けいしゅうすでにばんじゅうのやまをこえたり)」では、どんなに険しい道のりであろうと、詩人の小舟は軽々と山々を通り抜けてしまう様が描かれます。これによって、景観の雄大さと同時に、旅の快活さ、自由さが力強く表現されています。
唐代は詩の黄金期とも呼ばれ、李白はその代表的な詩人の一人です。彼の詩の特徴は、豊かな想像力と豪放磊落(ごうほうらいらく)な気質、そして自然に対する深い愛着にあるといえます。本作もそうした李白の精神性を具現化しており、たった数行の中に雄大な情景と心の解放感が結実しているのです。
この詩を読むと、三峡の風景の美しさと同時に、李白の心にあった旅への憧れや希望がありありと伝わってきます。現代の私たちにとっても、日常を飛び出し新しい場所へ向かう高揚感や、困難を軽やかに乗り越えるイメージを喚起してくれる一篇と言えます。
・わずか四句で鮮やかな旅情と自然の雄大さを伝える
・李白の誇張表現がスピード感と解放感を強調
・三峡特有の景色と猿の鳴き声が詩情を深める
・旅立ちの高揚感を凝縮した唐詩の代表例