[古典名詩] 別房太尉墓(べっ ぼう たいい ぼ) - 散逸が疑われる作品をめぐる背景と解釈

Farewell at the Tomb of Grand Commandant Fang

Farewell at the Tomb of Grand Commandant Fang - Du Fu

/别房太尉墓 - 杜甫/

故人を偲び、生死の無常を嘆く哀惜の詩

【原詩佚失の可能性】
本詩の完全な原文は諸説あり、現代まで全行が伝わらない可能性があります。
[The original text of this poem may be partially lost or disputed, and its full version remains uncertain today.]
【以下は参考的に伝承される断句の一例】
以下は資料によって伝えられる断簡的な詩句の一例で、必ずしも杜甫の定本を保証するものではありません。
[Below is one example of a fragmentary text handed down in some sources. Its authenticity is not definitively confirmed as Du Fu’s final version.]
明公壟墓在何處,
明公(めいこう)の塚はいずこにあろうか、
Where might lie the noble lord’s grave?
不見啼烏東西飛。
嘆きの鴉も見当たらず、ただ東西を飛ぶばかり。
No weeping crows in sight, just wings beating east and west.
昔日同袍今永隔,
かつて同じ衣をまといし仲も、今は永久の隔たり、
Brothers-in-arms we once were, forever parted now,
白日無情掩故枝。
陽は無情にも傾き、古木をさらに覆い隠す。
The pitiless sun sets, cloaking the old boughs in deepening shade.

『別房太尉墓』は、杜甫(とほ)が尊敬する人物――“房太尉(ぼうたいい)”と呼ばれる高官の墓に別れを告げる際の思いを詠んだと伝えられる作品ですが、現代に確実な全篇が伝わっているわけではありません。古来より『全唐詩』などの文献に断片的な形で記録が残されており、何らかの形で杜甫の詩稿にこの題があったことは確かとされますが、その真偽や定本は学界でも議論が続いています。

題名の「別房太尉墓」は直截に「房太尉の墓に別れを告ぐ」という意味であり、杜甫の詩風からすれば、戦乱の中で散っていった英雄、または敬愛する人物を悼む内容が想定されるところです。杜甫は数多くの追悼詩、哀悼詩を残しており、そうした作品では亡き人への純粋な敬意と、歴史や政治への苦い思いが同時に表現されることがしばしばあります。

この詩の一部とされる断句では、はっきりと墓所を探し求める姿や、共に過ごした過去を懐かしむイメージが浮かび上がりますが、後半の句は失われている可能性が高く、全容を知るのは困難です。もし断片が正しければ、かつて同じ理想を胸にした友が永遠に失われた悲嘆や、この世の無常感を深く叙情的に描いていたのではないかと推測されます。

杜甫は生涯を通じて、激動する唐代の政治や社会に翻弄され、官途や経済的困窮に苦しむ一方で、志を同じくする人物との友情を大切にする姿勢を作品のなかでたびたび示してきました。本作(あるいはその題名だけでも)は、そのような文脈の中で位置づけられ、故人への鎮魂や追憶、そして無情な時代への嘆きが綯い交ぜになった内容だった可能性が高いと言えます。

作品全体が散逸してしまった背景には、安史の乱前後の混乱や、後世の編纂で本文が欠落したことが挙げられます。杜甫の詩は当時から広く流布していたものの、戦乱や写本の紛失などで全篇が完全に残らなかったケースも珍しくありません。現在、研究者たちは各種の古注や類書を参照しつつ、この詩の内容を可能な範囲で復元・推定しようとしている段階にあります。

要点

• 「房太尉」という人物を悼む杜甫の作品と伝えられるが、全篇は散逸の可能性
• 題名や一部の断片から、敬愛する故人への追悼・歴史や時代への嘆きがうかがえる
• 杜甫の他の哀悼詩にも共通する、個人の思いと社会的背景の織り交ぜが推測される
• 研究者の間でも本文確定には議論があり、古典詩の散逸と伝承の難しさを象徴する例

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