[古典名詩] 老将行(ろうしょうこう) - 老いた将軍の心に宿る気概と歴史の空白

Song of the Old General

Song of the Old General - Wang Wei

/老将行 - 王维/

伝承の断片に見る老将の哀愁と雄壮な余韻

【原詩佚失の可能性:以下は伝承・推定断句の一例】
(本作は完全な形で後世に伝わらず、様々な史料から部分的・推定的に復元された詩句があるとされます。以下はその一例です。必ずしも正本を保証するものではありません。)
[This poem may be partially lost. The following fragmentary text is one version inferred from various sources, not definitively authenticated as the final text.]
鬢白猶持甲,
鬢(びん)は白くなれど、いまだ甲冑を身に帯び、
Though his temples turn white, he still dons armor,
年高不下鞍。
年老いてなお、馬から下りることを厭わない。
In advanced years, yet he disdains to dismount.
昔時謀略在,
かつての智謀はいまも胸に宿り、
His old stratagems remain sharp in mind,
今日更何難。
今日の戦場に臨むも、何を恐れようか。
What challenge, then, is there yet to fear?
風悲邊地暮,
風は荒涼と吹き、辺境の夕暮れを悲しませ、
A mournful wind stirs at dusk on the frontier,
雪冷朔方寒。
雪は北の地をさらに凍てつかせる。
Snow deepens the chill of these northern lands.
寸心還欲報,
わずかな心にも、国への報恩の念は尽きず、
A shred of loyal heart still aims to repay the realm,
不見舊旌幡。
もう見ることのない昔日の旗印を追い求めるのだ。
He seeks the banners of old that have long since vanished.

『老将行(ろうしょうこう)』は、一般には王維(おうい)の作と伝えられるものの、当時の版本や後世の編纂過程で失われた可能性が高く、全篇がはっきりと伝わっていないとされる作品です。上記の詩句は断片的に史料に残されているものをもとに推定的に再構成した例で、必ずしも王維自身の定本を保証するものではありません。実際のところ、『老将行』と題する作品は他の唐代詩人(李白、岑参など)にも存在し、混同や偽託が生じやすい事情があります。

題名が示すように「老いた将軍」をテーマとし、年老いてなお甲冑を離さず馬上にある姿が描かれます。辺境の戦地で、いまだ国への忠誠を胸に奮戦しようとするこの主人公の姿は、唐代の軍事や社会状況を背景に捉えるとより深く味わえます。唐王朝は西北や西南の辺境防衛に多くの兵を派遣しており、中には長年異郷に留まる者も珍しくありませんでした。

詩句には、風雪にさらされる荒涼とした辺境の夕暮れや、昔の栄光を思い出す旗印のイメージが並置されることで、老将の胸に去来する感慨が浮かび上がります。かつては若く、智略に優れた将軍が、白髪を抱えてもなお国に仕え、戦場に身を投じ続けようとする意思――その裏には、若き日と比べ自分がどこまでやれるのかという不安や、現在の朝廷や社会への複雑な思いも潜んでいたかもしれません。

こうした「老いてなお矢志衰えず」というモチーフは、中国詩歌においても古くから親しまれてきたものの一つです。本作(とされる断片)が伝えようとするのは、年齢による衰えを認めながらも、胸中に燃え続ける忠義と名誉への願いでしょう。王維の他の山水田園詩とは大きく趣を異にする作品といえますが、多面的な詩人像をうかがわせる上でも、失われた作品群のなかで特に注目されています。

要点

• 王維作と伝わるが、全篇は散逸し異説も多い
• 老いた将軍がいまだ甲冑を離れず、馬上で戦いを続ける姿
• 辺境地の風雪や過ぎ去りし旗印が象徴する、名誉と時間の不可逆性
• 唐代軍事と社会背景を踏まえ、古今の読者に忠誠や衰えゆく肉体への感慨を想起させる

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