[古典名詩] 慶清朝慢(けいせいちょうまん)(禁幄低張) - 詩の概略

Celebrating a Clear Morning (When Draperies Hang Low)

庆清朝慢(禁幄低张) - 李清照

慶清朝慢(けいせいちょうまん)(禁幄低張) - 李清照(り せいしょう)

春の陽気と失われし時を偲ぶ、優美な宴のかげり

禁幄低張,雕檐正暖,繡幕風輕舉。
禁中の帷は低く張られ、彫り飾られた軒先に温もりがさし、刺繡の幕をそよぐ風がそっと揺れる。
Curtains hang low in the forbidden hall, carved eaves bask in warmth, and embroidered drapes stir in a gentle breeze.
垂楊弄影,檀爐暗香,春意方濃數許。
垂れ下がる柳が影を遊ばせ、檀香をくゆらす炉がかすかな香りを放つ。今まさに、春は深まりを見せ始めている。
Willows sway in silken silhouette, the sandalwood burner releases a faint fragrance—spring is settling in with growing fervor.
芳樽共酌,歌吹相和,何奈紅顏頓改舊侶。
美酒を酌み交わし、歌や笛が響き合うその場にあって、かつての仲間はいつの間にか変わり果ててしまった。
Sharing fine wine, songs and flutes mingle in harmony—yet old companions seem so changed and distant.
才思量,暗綠流年,惘然空聚。
物思いにふければ、木々の暗い緑とともに流れた歳月を思い出し、むなしく人が集うことに心は惑う。
Reflecting on passing years in dusky green shades—our gathering feels hollow amid lingering memories.
回首佳期,辜負光陰,如今不堪重敘。
振り返れば、あの素晴らしい時期を無駄にしてしまった。今では、その物語を語り直すこともままならない。
Looking back on once-glorious days squandered—now, I cannot bear to retell those stories.
水遠山長,天涯羈客,柔腸萬結誰撫?
川は遠く山は長く、異郷に旅する身には、絡み合う思いが幾万とある。いったい誰がそれを慰めてくれよう。
Rivers stretch on, mountains loom—an exile at the world’s edge, burdened by countless knots of emotion with no solace in sight.
隔簾燈影,昨宵殘酒,是處荒涼無限緒。
簾の向こうに灯の影が揺れ、昨日の残った酒がもの悲しさを誘う。その荒涼たる景色は、尽きせぬ思いをかき立てる。
Beyond the curtain, lamplight flickers; last night’s dregs of wine heighten the desolation, stirring boundless reflections.
只怯看,晚來疏雨,淚痕頻渝。
ただ恐れるのは、夕暮れにぱらつく雨を見るたび、絶え間なく流れる涙の跡が心を乱すこと。
I fear the sparse evening rain, for each drop renews the traces of my tears, unsettling my heart again.

「慶清朝慢(禁幄低張)」は、宋代の女流詞人である李清照が、その繊細な感情をさまざまなイメージの中に織り込んだ作品とされています。詞牌である「慶清朝慢」は、ゆるやかで雅な曲調を想起させる韻律をもった形式です。

本作の冒頭では、禁中の帷が低く張られているという描写から始まり、王朝の華やかな宮廷の雰囲気がかすかに感じ取れます。しかし同時に、そこには静かな風や微かな檀香が漂い、物寂しさを伴う微妙な調子が暗示されています。春の深まりが示唆されながらも、華やかさだけではなく、かつての仲間や愛する人々が変わり果ててしまったという哀感が織り込まれている点が大きな特徴です。

中盤では、盛りの頃を振り返りながら、今となってはその記憶をもう一度語り合うことさえ難しいという寂しさが浮き彫りにされます。水遠山長、天涯の客として漂う感覚は、李清照自身が政治的混乱や夫との死別などを経験した人生背景とも重なり合い、読者に深い情感を喚起させます。

後半になるにつれて、残酒や灯火、そして疎らに降る夕雨のイメージが登場し、どこか荒涼とした世界観が際立ちます。こうした自然や室内の情景を交互に織り交ぜる手法は、作者の外的環境と内面的感情が呼応していることを示唆しています。雨の音が涙を誘い、涙がまた古い思い出を呼び起こす。そうした繰り返しのなかで、時間と心の揺れがよりいっそう鮮明に表現されているのです。

全体を通じて、宮廷や華やかな社交といった外面の美しさの背後に、失われた時間や変わりゆく人間関係への切ない嘆きがにじんでいます。李清照の詞には、しばしばこうした二面性—華麗さと寂寥感、過去と現在、期待と失望—が共存し、それこそが彼女の作品に特有の奥行きを生み出している要因と言えるでしょう。

要点

・禁中の雅やかで華やかな情景に、静かな寂しさが同居している
・春の訪れが描かれながらも、失われた時間や変化した人々への悲しみが強調される
・自然描写を交えつつ、李清照独特の繊細な感情表現が余韻を深めている

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