巫山高 - 李贺
巫山の高み - 李賀(りが)
巫山高 - 李贺
巫山の高み - 李賀(りが)
この詩は、巫山という壮麗な山々とその周囲を舞台に、人々の歴史や思い、そして神秘的な伝承までを織り交ぜた作品です。詩人李賀(りが)は唐代中期に活躍し、その鋭く幻想的でありながら深い叙情性を伴う作風で知られています。「巫山高」では、巴東を行き交う猿の鳴き声や、梁の燕がなぜか幕府の刀に巣を作るといった不思議なイメージを重ねることで、過去と現在、現実と伝説が交差する情景を描いています。
まず、巫山十二峰の厳かな姿が冒頭に示され、読者は一気に幽遠な山水の世界へ引き込まれます。続いて、神女伝説で名高いこの地に古くから生きる猿や燕が詠まれますが、その生態もどこか人間の営みと重なるように感じられ、詩人の独特な目線が表出しています。また、白帝楼や天師壇など、歴史や宗教儀式に縁の深い場所にも触れられ、現実世界と神話・伝説の世界を行き来するかのような神秘的な空気が漂います。
終盤では「蛾眉」「漢皋」という表現を通じて、時代や境遇の違いによって叶わぬ思いを嘆く心情が示されています。美女の眉にたとえられる“蛾眉”が「敛(ひそ)められる」様子は、悲哀や悔恨といった感情が視覚的に鮮やかに伝わってくる表現です。そして「悔不同时下漢皋」と結ぶことで、現実には戻れない時と場所を思い、歴史や運命に対する切ない嘆きを感じさせます。
李賀はしばしば、神話や伝説のイメージを借りながら人間の哀歓を描き出す手法を用います。本作も、巫山の伝説的空気を背景に、人々の儚さや望みのかなわぬ感情を重ねる構成がとられています。そのため、読み手は単なる風景描写としてだけでなく、不可逆な時の流れや運命に対する詩人的視点を味わうことができます。巫山の霊気に満ちた風景が、過ぎ去った時代や幻のような思いを映し出す鏡のような役割を果たしているとも言えるでしょう。
一方で、詩に登場する具体的な地名や建築物、伝承は読者に歴史や地理への興味を喚起させます。白帝楼や天師壇などは実在の場所として記録に残り、当時の政治や宗教と密接に結びついていました。こうした史実と幻想の入り混じった世界観こそが、李賀の詩の魅力の一つです。読み進めるうちに、目の前の光景が神秘的な古代の幻影と重なり合い、人間の感情が歴史の流れの中で浮かび上がるように感じられるでしょう。
総じて、「巫山高」は、壮麗な自然と古の伝説を背景に、人間の儚さや歴史を交錯させることで、詩情豊かに展開されています。神秘と現実が同居する世界観の中で、時を超えた思いや後悔が凝縮された作品といえます。
・自然と歴史、伝説が織りなす世界観を味わえる
・古典的モチーフから人間の感情を浮き彫りにする手法が学べる
・神秘的な風景描写を通じ、時の流れや運命への深い嘆息を感じ取れる
・白帝楼や天師壇といった史実の要素から、当時の宗教・文化背景に思いを馳せられる
・幻と現実が混在する独特の美意識を堪能しながら、詩に込められた余韻を味わうことができる
ジョン・ダンの「The Sun Rising(朝日)」は、愛の力を絶対視する大胆かつ機知に富んだ形而上詩の代表作です。語り手は、朝の光を放ち起こしに来る太陽を“うるさい老いぼれ”と罵り、⋯ 全記事を読む
ジョン・ダンの『The Good-Morrow』は、いわゆる“目覚めの詩”として多くの読者から愛されてきた作品です。恋人同士が真に愛を自覚した瞬間を“目覚め”にたとえ、それ以前の人生がまる⋯ 全記事を読む
この「ホーリーソネット第14番(私の心を打ち砕いてください)」は、ジョン・ダンの宗教詩の中でも特に力強い一篇です。詩人は“三位一体の神”に向かい、穏やかな救済ではなく、むしろ⋯ 全記事を読む
ジョン・ダンの「聖なるソネット第10番(死よ、驕ることなかれ)」は、“死”という存在に対し直接的に呼びかける斬新な手法と、神学的・形而上詩的な思想が融合した名作です。冒頭から⋯ 全記事を読む
「ノミ」は、17世紀イングランドの詩人ジョン・ダンの代表的な形而上詩(メタフィジカル・ポエム)の一つです。わずかな生き物である“ノミ”に二人の血が混ざり合うという出来事を巧み⋯ 全記事を読む
ジョン・ダンの「The Canonization(カノニゼーション)」は、彼の代表作のひとつとして知られる形而上詩です。タイトルにある“カノニゼーション”とは本来“聖人の列に加えること”を指⋯ 全記事を読む
ジョン・ダンの「A Valediction: Forbidding Mourning(別れの辞:悲しみを禁じて)」は、彼が遠方に旅立つ際、妻に宛てて書いたとされる詩です。表面的には“別れの場面”を扱いながら⋯ 全記事を読む
このソネット第116番は、シェイクスピアの作品の中でも特に「変わらぬ愛」の理想を力強く謳い上げた詩として知られています。詩の冒頭で語られる「真の心を結び合う者たちの婚姻を妨⋯ 全記事を読む
この作品は、シェイクスピアが描いた154のソネットの中でも、人生の不遇とそれを救う愛の力を対比的に表現した詩です。前半では、社会的な地位や経済的な運のなさ、そして他者からの⋯ 全記事を読む
この詩はウィリアム・シェイクスピアが書いた代表的な恋愛詩の一つであり、愛の不変性や美の永遠性を讃える内容です。語り手は、恋人を夏の日にたとえることでその魅力を強調します。⋯ 全記事を読む
「江南行(悲歌可以当泣)」は、南宋の詩人・陸游(りくゆう)が、江南地方の情景と失われた時代への想い、そして中原奪還への未練を重ね合わせた作品と伝えられています。題名の「江⋯ 全記事を読む
「农家叹(のうかたん)」は、南宋の詩人・陸游(りくゆう)が農村の困窮や農民の嘆きを率直に描き出したとされる作品です。彼は愛国詩人として名高く、失地回復への熱い情熱を多くの⋯ 全記事を読む
「剣南詩稿」は、南宋時代の詩人・陸游(りくゆう)の詩作を集めた作品集です。陸游は愛国詩人として、失地回復への悲願や激しい思いを筆に託した作品が多い一方で、田園生活や旅先で⋯ 全記事を読む
「自咏(じえい)」は、中国南宋時代の詩人・陸游(りくゆう)が、自身を重ねるように詠んだとされる一篇です。政治的野心や愛国的心情を強く抱きながらも、波乱に富んだ生涯の中で理⋯ 全記事を読む
本作「長歌行(家住蒼煙落照間)」は、南宋時代の詩人・陸游(りくゆう)が自然の中で送る悠然自適な暮らしを描き、同時に世俗の雑事から解き放たれた境地を示唆する詩です。題名の「⋯ 全記事を読む