[古典名詩] 渡荊門送別 - 詩から広がる故郷への想いと旅情の美学

Crossing the Jingmen Gate and Bidding Farewell

Crossing the Jingmen Gate and Bidding Farewell - Li Bai

/渡荆门送别 - 李白/

荊門を越え広大な原へ旅立つ詩仙の別れの情

渡遠荊門外,
荊門の外へと遠く渡り行き,
Crossing far beyond Jingmen Pass,
来從楚國游。
楚の国へと旅を続ける。
I journey forth into the land of Chu.
山隨平野盡,
山は平野とともに尽き果て,
The mountains vanish as they meet the plains,
江入大荒流。
川は広大な荒野へと流れ込む。
And the river runs into the vast wilderness.
月下飛天鏡,
月の下は飛ぶ天の鏡のごとく煌めき,
Beneath the moon, a flying heavenly mirror glitters,
雲生結海樓。
雲は海に楼閣を結ぶかのように立ちのぼる。
Clouds rise as if building a tower above the sea.
仍憐故鄉水,
それでもなお故郷の川を愛しく思い,
Still, I hold dear the waters of my homeland,
萬里送行舟。
万里の旅路を行く船を見送り続ける。
That see me off for ten thousand miles on my journey.

「渡荊門送別」は、李白が楚の地へ向かう途中、荊門を越えて旅立つ情景を背景に描いた詩とされます。唐代には交通の要衝として栄えた荊門を舞台に、山から平野へ、そして広い荒野へと地勢が変化していく様子を詩的に捉え、旅の始まりの期待と、故郷を離れる寂しさを同時に表現しています。

冒頭の「渡遠荊門外,来從楚國游」では、まず大きく移動する旅の勢いが示されます。続く二句「山隨平野盡,江入大荒流」において、山と平野との対比や、果てしなく続く大河が広大な荒野へ流れ込むというスケール感のある描写が、読者に雄大な風景を想起させます。

後半の「月下飛天鏡,雲生結海樓」に至ると、自然の景観はさらに神秘的な広がりを見せます。月の光が水面や大地を照らし、その光が天の鏡さながらに飛ぶというイメージは、李白の得意とする幻想的な比喩表現の好例です。また、雲が楼閣を結ぶかのように現れる姿は、旅人の胸中に浮かぶ無限の思いを映し出すかのようでもあります。

結びの「仍憐故鄉水,萬里送行舟」では、広大な景色を前にしてもなお故郷の川を惜しむ心情が強調されます。どれほど遠くへ行こうとも、故郷の流れは絶えず旅人を見守り、万里の先まで送ってくれる――そんな温かくも切ない情感が感じ取れます。

この詩には、旅に伴う期待と寂しさ、そして自然への畏敬と美への憧れが巧みに織り込まれています。李白の詩風はときに豪快で自由闊達ですが、ここではやや落ち着いた筆致で、しかし壮麗な自然描写を通じて読者を詩的世界に誘う魅力が存分に発揮されているのです。

要点

・荊門を越え、山から平野へと変化する大地の雄大なイメージ
・月と雲の幻想的な描写に見る、李白ならではの神秘的比喩
・故郷を離れる旅人の孤独と、一方で尽きない郷愁の想い
・雄大な自然を背景に、自在でありながら繊細な李白の情感表現

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