[古典名詩] 永遇楽(えいぐうらく)(落日熔金) - 詩の概要と背景

Eternal Encounter (When the Setting Sun Melts into Gold)

永遇乐(落日熔金) - 李清照

永遇楽(えいぐうらく)(落日熔金) - 李清照(り せいしょう)

黄昏に溶けゆく金の輝きと、消えぬ思いの余韻

落日熔金,暮云合璧,人在何处?
沈む日が金のように溶け、暮れゆく雲は合わせ鏡のよう。いま、人はどこにいるのか。
The setting sun melts into gold; twilight clouds merge in mirror-like splendor—where is everyone now?
染柳烟浓,吹梅笛怨,春意知几许?
柳の色は煙るように深く、梅笛の音は嘆きを帯びる。春の気配はどれほど進んだのだろう。
Willows are steeped in mist, the flute’s plaintive notes from the plum—who can tell how far spring has come?
元宵佳节,融和天气,次第岂无风雨?
元宵の佳き日に、穏やかな陽気が広がる。だが時に、風雨が忍び寄らぬはずはない。
At the Lantern Festival, mild weather prevails—but storms may yet intrude in due course.
来相招、香车宝马,谢他酒朋诗侣。
誘われて香り高い車や名馬に乗り、酒と詩を共にする友に感謝を捧げよう。
Summoned forth with perfumed carriages and fine steeds—let us toast those friends of wine and verse.
中州盛日,闺门多暇,记得偏重三五?
中原が栄えし日々、閨(けい)で過ごす暇も多かった。とりわけ十五夜(三五)の夜を大切に思い出す。
In those flourishing days of the Central Plains, idle hours were many behind chamber doors—how I treasured the night of the full moon.
拆灯新艳,依然旧欢,洒泪葬花歌曲。
灯を分かち合う新鮮な華やぎも、昔の歓びと同じまま。花を葬る歌のなか、涙がこぼれる。
As newly lit lanterns shine anew, old joys linger still—tears fall in floral-farewell songs.
长记曾携手处,千树压、西湖寒碧。
かつて手を携え歩いたあの場所をいつまでも覚えている。無数の木々が湖面に覆いかぶさるように立ち並び、西湖は冷たく碧(みどり)に染まっていた。
I still recall where we once walked hand in hand; a thousand trees weighed upon the cold jade waters of West Lake.
又归来、依旧桃花陌。泪染轻匀,愁颦绿粉,换却主人春服。
今また戻ってくれば、桃の花咲く道は変わらずそこにある。涙がうっすらと頬を染め、愁いに眉を寄せ、着替えたばかりの春の衣がせつない。
Once more I return to find the peach-blossom lane unchanged. Tears softly stain my cheeks; sorrow knits my brow, replacing my spring attire.

「永遇楽(落日熔金)」は、宋代の女流詞人・李清照が創作した代表的な詞の一つです。タイトルの「永遇楽」は詞牌(韻律や形式の名称)であり、副題とされる「落日熔金」は作品の印象的な冒頭句を示唆しています。夕陽が黄金色に溶けるような描写から始まり、元宵の季節や西湖の情景などを舞台に、李清照独特の優美な語り口と深い哀感が巧みに融合しています。

この詩には、盛んな日々を懐かしむ回想と、今は遠くなった人や場所に対する切ない思いが詰まっています。華やかな元宵節(旧暦の一月十五日)を回想する一方、季節や状況の変化を暗示する風雨、またかつての友や愛する人々との別離を象徴するフレーズなど、明るさと哀愁が入り交じる世界観が特徴的です。李清照はその生涯で政治動乱や夫との死別など、多くの不遇を経験しましたが、そうした人生背景が詞に奥深い陰影をもたらしています。

前半では夕陽と煙る柳、梅の笛といった絵画的なイメージが続き、まるで祝祭の光景を垣間見るような華やかさがあります。しかし、元宵の穏やかな陽気や香車・宝马(すぐれた馬)に乗って友と楽しむという図像の裏には、やがて訪れる風雨が暗示され、当時のはかない栄華や別離への予兆が忍ばせられています。

後半になると、中原(中州)の盛日を思い返しながら、闺(やしき)での優雅な暮らしを懐かしむ半面、花を葬るように歌われる悲しみも浮かび上がります。西湖の寒碧や桃花が象徴する美しい風景は、そのまま失われた過去の記憶の舞台でもあります。そして再び戻った場所で、作者は同じ景色を前にしながら、涙と憂いを抱いているのです。

一方で、本作には決して暗鬱な悲観だけが描かれているわけではありません。古き良き時代や馴染みの地を思うことで、かすかな希望や尊い思い出が生き続けることも示唆されています。全体を通じ、豪華さと物悲しさ、華麗さと寂寥感が交差しながら、李清照ならではの抒情世界が展開されています。読み手は、変わらぬ景色と変わりゆく人間の情感とのあわいに、一種の懐かしさや無常を感じ取ることができるでしょう。

要点

・夕陽の黄金色や元宵の華やぎに象徴される、かつての幸せと今の哀愁の対比
・自然の景色(柳、梅笛、西湖、桃花)を通じて、季節の移ろいと人生の変転を重ね合わせる手法
・華麗な場面描写の中に潜む深い悲しみや別離の予感が、李清照の人生背景と呼応している

シェア
楽しい時は時間が経つのが早いですね!
利用可能な言語
おすすめ動画
more