凤凰台上忆吹箫(香冷金猊) - 李清照
鳳凰台上吹簫を思う(香冷金猊) - 李清照(り せいしょう)
凤凰台上忆吹箫(香冷金猊) - 李清照
鳳凰台上吹簫を思う(香冷金猊) - 李清照(り せいしょう)
この詞(し)は、中国宋代の女流詞人である李清照(り せいしょう)が手がけた作品の一つであり、その題名「鳳凰台上吹簫を思う」は詞牌(しはい)を示す「鳳凰台上憶吹簫」の下に「香冷金猊」という冒頭句が添えられたものです。作品には、秋の冷たさと別離の予感、そして変わりゆく時代や自分自身の境遇への複雑な想いが巧みに織り込まれています。
詩の冒頭では、香炉(黄金の獅子型)に焚かれた香が冷めていく情景が描かれ、主人公が起き上がっても髪を梳く気力をなくしている様子が映し出されます。続くフレーズでは、宝鏡台にほこりが積もっていること、すでに日は高く昇っていることなどがさりげなく述べられ、日常の雑事さえままならないほどの憂鬱や倦怠感が暗示されます。
さらに「離別の苦しさを恐れ、語るべき多くのことも結局言えずに終わる」という表現からは、人と人とのあいだに横たわる別れの不可避性が切実に伝わってきます。李清照は、夫との別離や戦乱による故郷喪失など幾多の困難を経験しており、そうした人生の苦渋が濃厚に作品に反映されているともいえるでしょう。実際、本詞には「すでに瘦せ細ってしまった」や「陽関の別れ」という言葉が表出されており、作者自身が繰り返す別離や孤独を痛感していると読めます。
終盤では、「武陵の人」や「秦楼」といった地名のイメージによって、遠く離れた人と、霧に閉ざされた楼閣という取り合わせが、いっそう寂しげな雰囲気を醸し出しています。最後に示される「流水だけが朝から晩まで私を見守ってくれる」といった一節や、「そこに新たな愁いが加わる」という結びは、李清照の作品に繰り返し登場するモチーフです。流れる水の永続性と対照的に、人の心は限りなく揺れ動き、別離と思い出の狭間で新たな憂愁を繰り返し生み出すのです。
本作品の特徴として、視覚的な情景描写とともに、作者の内面的な心情が濃密に盛り込まれている点が挙げられます。李清照は優れた詩的感性を通じて、わずか数十文字の中に深い感動や切ない余韻を凝縮しており、時代を超えて多くの人々の共感を得ています。秋の季節感や別離の情緒を背景に描かれる物語性は、彼女の作品のなかでも特に印象的であり、読後にしんみりとした哀愁を宿す名作といえるでしょう。
・香炉の冷えと紅い寝具の乱れが象徴する秋の冷たさと倦怠感
・別離の苦しみを繰り返す人生が短い詞句に凝縮
・楼閣や流水といったモチーフを通じた孤独と叙情の対比
・李清照特有の繊細な感受性が時代を超えて読者の心を打つ名篇