[古典名詩] 西施咏(せいし えい) - 絶世の美女・西施の数奇な運命を映す詩の要点

A Poetic Tribute to Xi Shi

A Poetic Tribute to Xi Shi - Wang Wei

/西施咏 - 王维/

絶世の美しさと運命に翻弄される姿を詠んだ一篇

艷色天下重,
艶(つや)やかな美しさは天下が重んじるところ、
Beauty of such splendor is prized by all beneath the heavens,
西施寧久微?
西施(せいし)は、どうして長く埋もれていられようか。
Could Xi Shi remain unknown for long?
朝為越溪女,
朝(あした)には越の川辺に暮らす娘であったのに、
In the morning, she was but a girl by the Yue river,
暮作吳宮妃。
暮(ゆうべ)には呉の宮廷の妃と化す。
By evening, she became a consort in the Wu palace.
賤日豈殊眾,
卑しい身であった日々と、周りの民と何ら違わなかったが、
Her humble days were once no different from the common folk,
貴來方悟稀。
高貴の座を得て、はじめてその希有な運命に気づくのだ。
Only after rising to nobility did she realize how rare her fate was.
邀人傅脂粉,
人に請われ、白粉を施されるも、
Urged by others, she allows them to adorn her with powder and rouge,
不自著羅衣。
自らは羅衣(うすぎぬ)をまとうことすら控えめにしている。
Yet she remains reluctant even to don fine gauze by her own will.

この詩は、唐代を代表する詩人の一人・王維(おうい)が、春秋時代末期の越の美女・西施(せいし)のエピソードを詠んだものと伝えられています。彼女は越王勾践(こうせつ)による呉への復讐計画の一環として、美貌をもって呉王夫差(ふさ)を惑わせ、その結果、呉を衰亡へと導く要因となったとされる人物です。絶世の美しさで歴史を動かす女性として有名でありながら、その運命は必ずしも本人の意志によるものばかりではなかった点が、後世の多くの詩や物語の題材となってきました。

本作冒頭の「艷色天下重,西施寧久微?」では、「天下が認めるほどの美貌を持つ西施が、いつまでも埋もれているはずはない」という必然性を暗示します。そして「朝には越の娘、暮には呉の妃」と続く句は、その急激な身分変化を象徴的に示しています。わずかな時間のうちに川辺に暮らす庶民から高貴な宮廷の妃となった事実は、美しさゆえの波乱を端的に物語るものです。

さらに、「賤日豈殊眾,貴來方悟稀」では、昔は普通の娘と何ら変わらなかったはずの西施が、高貴の座に就いたことで初めて自身の境遇の特異性に気づく様子が表現されます。これは王維ならではの叙情性がうかがえる部分で、英雄豪傑(あるいは権力)に翻弄される女性の姿が淡々と、しかしどこか儚げに描かれています。

結句の「邀人傅脂粉,不自著羅衣。」には、他者から薦められこそすれ、自ら進んで贅沢を好まない慎ましさや、あるいは本人の戸惑いをも感じ取ることができます。絶世の美女でありながら、その美貌が国や運命さえ変えてしまうほどの力を持ち、なおかつ本人の意志が反映されにくいという切なさが余韻として漂うのです。

全体としては、西施の“特異な境遇”と“自己の意志を超えた運命”が、王維の端正な詩句によって余すところなく描き出されています。また、この作品の背景には、中国人が古来より抱いてきた「絶世の美女と国家の栄枯盛衰」というテーマが垣間見えます。歴史を動かす美貌を持ちながらも、その実は無力であるかのような姿は、多くの読者にとって大きな感慨を誘う題材であり続けてきたのです。

要点

• 歴史を動かすほどの美貌を持つ西施の運命と、そのはかなさ
• 朝と暮れに対比される身分の急変が、美の威力と悲劇性を強調
• 王維独特の気品ある詩風が、国を覆す美女の哀愁を端的に表現
• 本人の意志を超えて動かされる運命に対する王維の繊細な視線

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